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ディープテックの集合体で考える災害マネジメント <2024年開催・超異分野学会 東京・関東大会ダイジェスト>

2024年3月の「超異分野学会 東京・関東大会」で実施されたセッション「ディープテックの集合体で考える災害マネジメント」。本セッションを通じて、リバネス・レジリエンス・プロジェクトの構想が明かされました。
大災害が発生した際、街にレジリエンス(弾力性、復元生)があるかどうかが非常に重要になります。しかし、災害マネジメントが必要な状況においても、インフラや日常生活の回復に向けてすぐに行動できるコミュニティーが少ないのも事実です。ディープテックの集合体でチームをつくり、災害マネジメントを加速させることができないか。実際に被災地に貢献できるディープテックを持っている登壇者たちがその方法を議論します。


水インフラを建設業から製造業に変える

リバネス 丸 幸弘 皆さん、突然ですが、今ここで地震が発生したらどうしますか。いすの下に隠れる? 出口を確保する? とっさに出てくるのはそれぐらいですよね。今年の元旦に起きた能登半島地震も、こうやって人々が楽しく過ごしていた瞬間に、不意打ちで起きました。

大災害の後に大切なのは、街にレジリエンス(弾力性、復元性)があるか、どうか。しかし実際、インフラや日常生活の回復に向けてすぐに行動できるコミュニティーは、日本に存在するでしょうか。能登半島地震でも、その辺りがなかなかうまくいっていないように見えます。

今日登壇いただいている皆さんは、それぞれが被災地に貢献できるディープテックを持っています。ぜひこのメンバーで、災害マネジメントについて議論していきたい。まずは昨日、能登の被災地から戻ってきたばかりのWOTAの前田さんから、自己紹介をお願いします。

WOTA 前田 瑶介氏 WOTAの前田と申します。われわれは「世界の水問題の解決」を目指して創業した会社なのですが、ベンチャー企業がいきなり日常の生活用水を手掛けるのはハードルが高く、技術も未熟な段階。そして何より身近な水問題として、災害時の広域断水があった。だから、最初は災害時の水問題に向けたプロダクトを目指しました。そんな中、2018年に西日本豪雨が発生しました。このとき、プロトタイプとして作っていた水浄化装置を持って現地に駆けつけ、2週間ぐらい入浴できなかった方々に、温かいシャワーを提供することができました。

これがきっかけで、災害時の広域断水という課題に取り組み始めました。プロトタイプでは限界があったため、約1年かけて製品化したのが、小型で操作が簡単な水再生処理システム「WOTA BOX」です。このシステムがあれば、現地で回収した水をろ過・殺菌し、98%以上を再生して循環利用することを可能にします。

前田 瑶介 氏 WOTA株式会社 代表取締役 兼 CEO 徳島県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻(修士課程)修了。小学生の頃から生物学研究を開始し、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に水処理の研究を実施。大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では住宅設備(給排水衛生設備)を研究。ほか、デジタルアート等のセンサー開発・制御開発に従事。WOTA CEOとして、水問題の構造的解決を目指す。

 

その後も国内外で大きな災害があるたびに出向き、水再生システムを導入してきました。先日の能登半島地震では発生当日の1月1日から石川県庁と連携。1月末までに能登半島の断水エリア全域をカバーし、毎日約1万人の方々に入浴できる環境を提供しました。能登での断水は長期化しており、社員だけでシステムを維持・管理し続けるのは難しい。そこで、地域の方々にも協力していただく「自律運用」モデルを構築しました。操作を担う人の中には、中学3年生もいる。そういう方々が「WOTA BOX」を動かせるということも、今回、確認できました。

能登半島地震での弊社の活動を国会での岸田総理の施政方針演説などでもご紹介いただき、災害時の水問題について、多くの方に知っていただくことができました。しかし、ここで終わらせてはいけないと考えています。今のわれわれのシステムでカバーできるのは1万人前後が限界です。例えば首都直下型地震が起きたら、政府の試算では1ヶ月経っても約 100万〜360万人が断水状態になる。これに対して、現状ではほぼ水利用の備えがない状態です。

今の上下水道は、大型処理施設と住宅をパイプラインでつないでいますが、災害時に断水する可能性があり、維持管理にも費用がかかります。そこでわれわれの長期的なミッションとして、1世帯単位で水を循環させる、小規模分散型のインフラを広めたいと考えています。そのための住宅向け「小規模分散型水循環システム」を、今年から量産する予定です。

このシステムの実証実験はすでに始まっており、国内では、愛媛県の過疎地で使われています。また、能登半島の復興でもいくつかの自治体で導入が検討されています。というのも、これまでと同じ方法で上下水道管を作り直すと、多くの時間とお金がかかる。それでも災害があれば、また広域断水が起きてしまうかもしれない。こうした課題を小規模分散型のモデルを使って解決し、将来的には他の過疎地域にも活用していただきたいと考えています。

海外では、カリブ海のアンティグア・バーブーダという島国での取り組みを進めています。この国は気候変動によって10万人の生活を養っていた池が干上がるなど、水資源の不足が深刻化しています。そういった地域などに水インフラを、建設業としてではなく、製造業として輸出していく。

私は、日本の水処理技術とものづくり、どちらにももっと可能性があると思っています。先輩たちが真摯に取り組んできた両者の技術をコラボレーションさせることで、世界の水問題を解決したい。また、「水問題解決」を通して世界中の人々と深く繋がっていきたい。そんな思いで事業をしています。

「誰でも参加できる仕組み」をつくる

 今のお話で気になったのは、「日本の上下水道システムはダメだったのか?」ということ。日本は全国に水道管を張り巡らせて、私たちもその恩恵を受けてきました。その仕組みはもう古いということでしょうか。

前田 国が成長してくると、まず水道を造りますよね。そうすると水使用量が増えて、排水量が増えるので下水道を造る。今度はそれを何%普及させるというのが、KPIになっていく。日本だと上水道98%、下水道85%程度にまで達していますが、そこでようやく財政的に厳しいと気が付いたわけです。その議論は1970〜80年代からあったのですが、ギリギリの状態になるまで水道管普及の見直しがかけられなかったということです。

 技術的にはできたのに、実行する人がいなかったのか。それともテクノロジーが追いついていなかったのか。どちらなのでしょう。

前田 両方だと考えます。技術的には、膜や生物処理といった要素技術は80年代からありました。一方で、それらを効率的に管理するためのデジタル技術が汎用化してきたのは比較的最近です。あとは、人口がどんどん増加する中で、日本が他国に先駆けて上下水道の普及を進める中で、どうしてもそちらが世の中の主流になっていった。近年になって総人口の減少フェーズに入ったことで、インフラを更新する際の財政がないことが過疎地域などを中心に地域によっては限界を迎え始めた。

 先ほどの前田さんの説明で一番興味深かったのが、「WOTA BOX」を中学生が操作していたところです。災害時に地域の若者がパッと操作できたら、その人はヒーローじゃないですか。誰が考えたんですか?

前田 彼が自分から「やりたい」と言ってくれました。

 感動しました。今日のテーマはレジリエンス、つまりコミュニティーにいざ何かが起きたとき、住民が協力しながら行動を起こせるか。そこにつながる話ですね。

前田 水問題を解決する一番早い方法は、誰もが参加できる仕組みをつくることだと思います。世界中で気候変動が猛威をふるい、水問題が深刻化する中で、なんとかしたいと思っている人はたくさんいるはずですから。

 このセッションパートナーであるアクアクララさんは、被災地に飲み水を届ける活動をされています。生命維持のために、これは絶対必要です。一方でシャワーの提供というのは、被災地のQOLの改善という点で大切なのでしょうか。

前田 もちろん衛生面での必要性もありますが、避難所として利用されている学校の校長先生が「これは人間の尊厳だよね」とおっしゃったのが印象的でした。何週間もお風呂に入れず、身体の匂いなども気になる状態を強いられるのは、辛いことです。しかし飲料水が1日約3リットルなのに対して、生活用水は1日250〜300リットルは必要であるのに加え、水を使うとその分の排水も出る。そういう事情から、これまでシャワーの提供は難しかったのです。

被災地で雑草を見てアイディアを思いつく

 さあ、水の次は何でしょうか。馬場さん、よろしくお願いします。

環境微生物研究所 馬場 保徳氏 私が小型メタン発酵システムを開発するきっかけになったのは、自身の被災経験です。学生時代に東日本大震災に遭い、しばらく避難所で過ごしました。温かい食べ物もなく、灯りもなく、携帯電話の充電はすぐ切れてしまい家族との連絡もつかない。そんな環境下でも雑草だけは生えていました。それを見ながら、「この雑草からメタンガスを作ることができれば、発電機もコンロも使えるのに」と考えていました。

馬場 保徳 氏 環境微生物研究所株式会社 代表取締役 石川県立大学生物資源工学研究所 講師。博士(農学)。牛ルーメン微生物を使用した新規メタン発酵法の研究で博士号を取得。2011年の東日本大震災での被災生活の経験から、いつでもどこにでも存在する雑草から都市ガスであるメタンガスや電気をつくり、停ガス停電を伴う災害時にも、飲食や電気の使用を可能とするべく研究を進めている。東北大学総長賞(平成25年度)、農林水産省の若手農林水産研究者表彰(令和元年度)で農林水産技術会議会長賞を受賞。2022年8月環境微生物研究所株式会社を設立し、災害対応機能を備えた資源循環型発電システムの事業化に取り組んでいる。

 

そこから研究をスタートしましたが、雑草には植物細胞壁があるので、普通のメタン菌では分解できません。そこで、いつも草を食べている牛の胃袋に注目しました。ルーメンと呼ばれる牛の胃は、草を溶かす微生物をたくさん飼っています。この微生物を取り出して人工的なタンクで培養し、雑草からガスや電気を作る開発を目指しました。

このシステムは、東日本大震災から12年経ってようやく完成しました。災害時でも、雑草や野菜くずを発酵させてガスと電気を作り、自立できるという意味で「エコスタンドアロン」と名付けました。装置には、「GEP(ゲップ)ソリューション」と書いてあります。

会場 (笑)

馬場 牛の「ゲップ」と、「Green Energy Production」の頭文字を掛け合わせました。装置の上から雑草を投入すると、隣のタンクでメタン菌がガスを作ってくれます。ガスコンロにつなげて料理に使ったり、発電機につなげて蓄電しておくこともできます。

このシステムは現在、石川県のショッピングセンターで稼働しています。ここでは野菜くずが1日100kg以上出るので、それを分解してガスを作って発電し、在庫管理に使うタブレットの充電などに使っていただいています。いざ災害が起きたら、地域の防災拠点として炊き出しをしたり、スマホの充電を提供したりする場所になるでしょう。

元旦に能登半島地震が起きたとき、エコスタンドアロンの小型版を能登に持って行っていいかを、しかるべき所に相談しました。しかし、自衛隊によるトラック輸送を優先するため、小口の支援は迷惑になることがわかりました。つまり、平時からその場所で稼働していないと、いざ災害が起きたときに役に立てないのです。今後、さらに各地域のスーパーマーケットに導入していただき、災害時にきちんとその場所にあるという状況を実現したいと考えています。

最後に、発酵残渣の利用についてです。野菜くずが発酵すると、メタンガスが出て液体が残ります。それを液体肥料として田んぼで使ったところ、化学肥料をまいた田んぼと収穫量がほぼ変わらなかった。私はビールが好きなので、ビールホップの肥料に使っていただき、地域のブルワリーと共同開発して「防災ビール」と名づけて販売しています。

防災ビールのジャケットには、男の子が雑草を摘んで、おじいちゃんに渡している絵が描いてあります。おじいちゃんの後ろに「GEP」があります。そこに雑草を入れてガスを作り、そのガスで作った温かいカレーを男の子に渡している。その横では、メタンガスで明かりを灯したり、メダンガスから作った電気でスマートフォンが充電されている。こういう未来を実現したいと思っています。

前田 何kgの雑草で、何kWぐらいの電気が作れるんですか。

馬場 プロトタイプは乾燥重量10kgの原材料で、大体1kW発電できます。現在は、ラボ試験で乾燥重量10kgの原材料から7kWまで発電できるメタンガスを得ています。

前田 なるほど、現実味がありますね。

 災害の跡地に雑草が生い茂ってしまうことはよくありますよね。でも雑草を刈るのは結構大変じゃないですか。ロボットを導入するとか、機械化できるといいですね。または土とか、採取しやすい別のもので代用する。

馬場 炭素と水素があれば、他のものでも代用できます。ただし、木材のような固いものだと、微生物が分解できない。

 排泄物はどうでしょうか?

馬場 大丈夫です。実は能登半島地震で排泄物の処理が進んでいないことを目の当たりにして、しかるべき所に相談しました。そのとき、排泄物が発酵した後に出る液体をどうするのかと聞かれました。土を掘って埋めたらどうかと提案しましたが、それはNGでした。バイオトイレのように、微生物の働きを使って人間の排泄物を分解・処理できる仕組みがあればいいのですが。

自家用車で運べるコンテナを避難所にする

 今の話、次の吉岡さんにつながりそうですね。吉岡さん、お待たせしました。よろしくお願いします。

芝浦工業大学・東京大学 吉岡 剛氏 こんにちは、吉岡です。自己紹介はいつも「生まれも育ちも兵庫県にもかかわらず、カープファン」というところから始めています(笑)。専門はエネルギーで、肩書きは大学の所属になっていますが、個人で環境コンサルタント会社も運営しています。産学どちらにも片足を突っ込んで、橋渡しをできればと思っています。

吉岡 剛 氏 芝浦工業大学 システム理工学部環境システム学科 特任教授/東京大学工学研究科 電気工学専攻 松橋研究室 特任研究員 1975年兵庫県生まれ。大阪大学基礎工学部機械工学科卒業後に建設コンサルタント会社に入社し、設備設計や国・自治体の新エネルギー・省エネルギー関連の業務に従事。その後、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学の修士課程および博士課程(環境システム学)修了、博士(環境学)。大学院では、エネルギー事業のリスク分析や金融工学手法を用いた投資戦略について研究。これまで、再生可能エネルギー・省エネルギーに関する調査・研究、国・自治体の政策支援とともに、地域におけるエネルギー事業の立ち上げ・開発支援、資金調達(市民出資の企画・組成等)に従事。

 

今、盛り上がっているのは、環境省の「脱炭素先行地域」。2030 年度までに対象エリアの民生電力を脱炭素化する計画を全国で100地域選定する評価委員をしています。その中でもやはり、レジリエンスがキーワードとして出てきていますね。

キャリアを振り返ると、大学で機械工学を学び、建設コンサルタントで働きました。その後、ずっと取り組みたかった自然エネルギーの仕事をいただくことができ、エンジニアの知識だけでは足りなくなってきました。例えば、風力発電では風況分析や発電システムの設計を担当するのですが、プロジェクトが進む中で資金調達や地域住民との合意形成など、さまざまな課題が出てくる。そこで大学院に入り直して環境経済学とファイナンスを学び、事業をやりながら人材育成や合意形成のための社会学などの知識も得て、今に至ります。

自然エネルギーのプロジェクトは、自然の不確実性、制度、地域の反対などさまざまなリスクを抱えています。そのリスクにどう対応すればよいのか、どのタイミングで投資し、拡大・あるいは縮小・撤退していくのかなどの研究をしていました。

事例として、2000年頃に建設したデンマークの洋上風車を紹介させてください。別荘地に近い場所で、事業者は当初、2列にして多くの風車を並べる案を出し、地域で反対運動が起きていました。そこから地域の方と何度も対話を重ね、デザインを見直して風車を弓状に並べる工夫をし、合意を得ることができました。しかも、事業開始にあたり出資を募集すると、地域の方を含め多くの出資があったそうです。このように、地域との合意形成は重要なポイントです。

さて、今回のセッションパートナーであるアクアクララさんとは、一緒に「BLOCKLY(ブロックリー)という小型のコンテナの開発に取り組んでいます。それこそ、災害時に大きなコンテナを現地に運ぶのは大変です。BLOCKLYは2.1mの真角で、750kg以下。普通免許の自家用車で運ぶことができます。普段はシェアオフィスやキッチンカー、グランピングなどの用途で使い、災害が起きたらすぐに避難施設に転用できる。

神戸の1号機から始まって、今度は千葉にグランピングタイプのものを設置予定です。モバイルの太陽光発電とバッテリーを一緒に置いて、エネルギー自立型にすることも考えていますし、BLOCKLYを使ったバイオトイレも5月ごろにローンチ予定です。

目白大学社会学部で、「BLOCKLYを活用して、どんな社会問題を解決できるか」という演習の授業でも扱っていただいています。学生さんは発想が豊かで、福祉目的でお風呂にするとか、シェルターで使うとか、防音施設で使うとか。面白いなと思ったのは、田舎で移動式マルシェを開催するという話で、さまざまな提案に刺激を受けながらやっております。

ディープテックの集合体で新しい提案へつなげる

 BLOCKLYの電力源は雑草がいいんじゃないですか。

馬場 雑草なら、ソーラーパネルが発電できない雨の日も関係ないですから。さっき伺ったら、40Wで動くということだったので、それなら小型化した「GEP」があれば充分です。

 そこにWOTAの装置も付けたらどうでしょう。

丸 幸弘 株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程修了、博士(農学)。2002年大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。日本初「科学出前実験教室」をビジネス化。異分野の技術や知識を組み合わせて新たな事業を創る「知識製造業」を営む。アジア最大級のディープテックベンチャーエコシステムの仕掛け人として、世界各地のディープイシューを発掘し、地球規模の課題解決に取り組む。ユーグレナをはじめとする多数のベンチャーの立上げにも携わる。

 

前田 250Wくらいいただければ。

 いいですね!このようにディープテックが集まれば、新しい提案が生まれてくる。ところで今、大学の中でレジリエンスの教育はどういったものがあるんですか。

馬場 私のラボでは、「GEP」を使って合宿をしています。泊まりがけで過ごす中で出てきた困りごとを、その都度、学生たちが大きな紙に書いていく。時期によって条件が変わるので、この合宿を毎シーズンやってシステムの精度を上げています。

 その体験自体が、教育になっているのですね。吉岡さんのところではいかがですか。大学での教育もそうだし、さっきお話しされていた環境省の計画のようなところで、政策担当者への教育も必要ですよね。

吉岡 大学ではエネルギー関係の演習がありますが、災害時に特化した教育というのは特にないですね。ただ、エネルギーは需要と供給のバランスが重要ですから、平常時と災害時の需要をきちんと調べて研究することを、もっとやらなければと思っています。

行政の政策担当者への意見という意味では、エネルギーインフラを考えるときに、地域の将来を考慮し、移動性があるとか、他の地域でも使えるような柔軟性があるシステムや既存系統を活用するといった、長期的な街づくりを見据えたものにしましょうと常々言っています。

 エネルギーインフラと水道のインフラ、国の政策担当者は同じですか?

前田 違います。

 ここがおかしいですよね。「レジリエンスを高めましょう」「日本を強靱化していきましょう」と言いながら、水道のインフラの人たちと、エネルギーのインフラの人たちが適切に会話していない。日本の縦割り社会が象徴されています。おそらく100年以内に、さまざまな大きな災害が起きますよね。気候変動、待ったなしです。それなのに教育はできてない、各省庁で効果的に予算が使われていない。なぜかというと、縦割りだから。

この超異分野学会は横串で議論しましょう。各分野の課題を解決できる研究者がここにいるのですから。

「リバネス・レジリエンス・プロジェクト」始動!

 今日ここに、各分野の災害マネジメントに関するディーブテックが集合しました。まずは出会えたわけです。では、ここからどうするか。私からもプレゼンさせてください。

災害マネジメントというときに、対象となる災害はさまざまです。日本だと地震、東日本大震災では津波も起きました。世界を見ると干ばつ、地滑り、洪水など、国によって災害の定義が違います。

それに対して重要なのは、災害が起きた後、社会がどういう状況になるかを想定することです。コミュニティーには、子ども、お年寄り、会社員、当局、専門家、起業家などさまざまな属性の人がいます。この人たちがどうなるのか。コミュニティー要員の状況と、食糧、水、物流などのリスクを1つずつ行ったり来たりしながら、準備、意識改革、リカバリープラン、管理、モニタリングをやっていく必要があります。

しかし今、日本では水道は水道だけ、物流は物流だけ、食は食だけで考えていて、こういったプランがありません。これだけ震災や水害があり、災害マネジメントが必要な状況にありながら、この問題への対応が遅れている。今日、私が言いたいのは、そろそろ現実を直視して動き出しませんか?ということです。

例えば、自治体が「WOTA BOX」や「GEP」を何個持っているかなど、レジリエンスを測る項目を作って、吉岡先生のような専門家が数値化する。そういったデータを通して、コミュニティーが自分たちのレジリエンスについての考え方を共有する。

また、社会のあらゆる階層に対して、レジリエンスについての教育が必要です。学校をはじめあらゆる場で知見を共有し、議論する。その上でキープレイヤーが、自分たちのコミュニティーに合う活用法を見出してアクションしていく。そういうキープレイヤーが多い地域が、レジリエンスのある地域ということになります。

こうしたプランを実現するべく、われわれは「リバネス・レジリエンス・プロジェクト」を立ち上げます。レジリエンスというのは、災害時だけを指すわけではありません。例えばフードセキュリティー。大きな戦争があって食糧が海外から入ってこなくなったときにどうするかなど、さまざまな状況を想定しています。また、能登半島地震の被災地でWOTAの操作を中学生が助けたように、社会を構成しているさまざまな人々が参加できる仕組みも必要です。

今回の登壇者の方々をはじめ、国産ドローンのACSLや、Liberaware(リベラウェア)といった日本の企業に加え、マレーシアの会社からも参加したいと申し出ていただいています。世界中からディープテックの企業が集まり、大企業のアセットもぜひ加えていただき、しなやかで駆動性のある社会インフラを創造する。民間企業として国にきちんと要請を出し、研究課題への予算も取りに行って、大きなプロジェクトにしていきたいと思っています。

ということで、時間になりました。登壇者の皆さんから、最後に一言ずついただきましょう。

吉岡 私はずっとエネルギーの視点で考えてきましたが、今日こうやって水や雑草の話を聞いて、それらをうまく一緒に回していければ、よりいいものが作れるのではないかと思いました。何か一緒にできればと思いますので、引き続き、よろしくお願いします。

馬場 「災害関連死」という言葉があります。これは災害が直接の原因ではなく、その後に関連する事柄で亡くなることを指します。例えば東日本大震災では、寒さで体力のない65歳以上の高齢者から亡くなっていき、災害関連死の9割を高齢者が占めたといわれています。もし、われわれの装置があれば、温かいご飯や暖をとることができて災害関連死を減らせたかもしれない。私たちが平常時から各地にシステムを普及することが、災害関連死を防ぐことにつながると信じて、これからも進めていきます。

前田 さまざまな地域で、災害対応を8年近く行ってきました。そこでいつも味わうのは、悔しさです。被災地での問題というのは、技術的にはとっくに解決できることばかりなのです。ただ、自分たちの準備が至らなかったせいで、大勢の人がその技術にアクセスできない。そのために新たに物を作ろうとすると、どうしても数ヶ月かかる。でも被災地では、「数日以内になんとかしてほしい」というレベルで困っていて、災害が起きてから対応していると間に合わない。そういう悔しさを感じるたびに、「次はこんなことを繰り返したくない」と思い、改善しながら今までやってきました。

その経験から、さっき丸さんがおっしゃったように、この国に次また大きな災害がきたときにどうするべきなのか、起きた後に後悔しないためには、ゴールから逆算し、準備しておくことが大事だと思います。今回、そのプロジェクトが動き出すことは、すごく意義のあることだと思います。

 ありがとうございます。レジリエンスのある地域づくりを目指して、これからリバネス一同とディープテックの集合体のチームで、社会に働きかけていきましょう。今日ここで話を聞いた方、皆さんはもうキープレイヤーですよ。参加したい方は声をかけてください。ぜひ、一緒にやりましょう。

左より:リバネス 丸幸弘/WOTA 前田 瑶介氏/環境微生物研究所 馬場 保徳 氏/芝浦工業大学・東京大学 吉岡 剛 氏

(構成:室谷 明津子)

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